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過去にアンケートのお礼として、ご協力いただいた方にのみ公開していました。

初DQ5創作でほのぼの、ちょい甘?な家族団欒風景を目指しました。
名前は主人公:リュカ、子どもたち:ティミー、ポピーです。




 勢い良く扉を開けて、案の定な様子に私は盛大な溜め息をつく。
 湯気が立ち込める風呂場にいた二人と一匹が、そんな私を一斉に見やって各々違った反応を見せた。
「ただいま、ビアンカ」
「た、ただいま・・・お母さん」
 普段どおりの笑顔のリュカと、明らかにちょっと肩をすくめて逃げ腰のティミー。その二人の隣でプックルが、ぐぁお、と甘えるような声を上げた。
 そんな二人と一匹は、見事なまでに泥まみれだった。
 ここに来る少し前から、予想はしていたのだ。
 何せ、外からこの風呂場まで、点々と泥水の滴った跡や大きな猫科の足跡があったのだから。
 実際、プックルは前足だけだったが、リュカとティミーはほぼ全身、髪から服まで泥色に染まって見るも無残な有様。
 私はもう一度溜め息をついて、そしてそれと同じくらい大きく息を吸った。
「ぬかるんでる場所には気をつけなさいって、言ったでしょ?!」
 その声に、ティミーとプックルが声もなく縮こまったのが見えたが、隣で笑顔を崩さない彼のおかげで勢いが止まらなかった。
「リュカ! 私は主にあんたに言ってるんですからね!」
「お母さん、違うよ・・・。僕がお父さんを引っ張ったから・・・」
 髪の毛から泥色の滴を滴らせたまま、ティミーは一生懸命リュカと私の間に入った。
 リュカが子どもたちを連れて遊びに行くのはいつものこと。
 しかし、今日は昨日まで激しく降っていた雨が明け方にようやく止んだといったタイミングで、野山を歩き回るには少しばかり不安が残った。雨が降った後は地面が滑りやすいし、小規模でも土砂崩れなどがあるかもしれない。
 そんな不安もあったけれど、リュカやプックルがいるなら大丈夫だろうと思ったから、送り出したのだ。
 そしてティミーが説明したことも、だいたい予想はできたことだった。
 ちょっとバランスを崩した場所が、ちょうどぬかるんで泥沼状態になっていて、なんとか立て直そうと慌てて掴んだものが父であるリュカの服で、共倒れになりそうになった所をプックルが咥えて支えようとしたがブックル自身も沼に前足を突っ込むような形になって・・・。
 結局二人は沼にはまって泥だらけになったのだが、プックルの背に乗っていたポピーは難を逃れたのだと言う。
「それでポピーはどこに行ったの?」
 風呂場周辺にいない娘の居場所を聞くと、父子が一瞬顔を見合わせた。
 程なく、廊下を走ってくる小さな足音が聞こえ、タオルと替えの服を持ったポピーが顔を出した。
「お父さん、ティミー、タオルと服持って・・・あっ、お母さん・・・!」
 しまった、という顔をして慌てる娘を見て、リュカを振り返ると、笑顔は笑顔ながら、今度は彼も少し肩をすくめてから正直に白状した。
「見つかる前にきれいにしようと思ったんだけどなぁ」
 ごめんね、と口にしながら、泥色の染みついた紫紺のターバンをずるりと外す。
 その拍子にあちこちの泥がはねて、リュカ自身の服にも隣のティミーの顔にもまた新しく染みを作った。
「あ」
「わ」
 二人の惚けた声がはもった。その隣で、同じく被害を受けたらしいプックルが鼻にしわを寄せた。
「・・・まったくもう」
 本当はもっと叱っておきたかったけれど、二人のぽかんとした表情を見たら、なんだかそんな気もなくなってしまって、代わりにもう一度溜め息をついた。
 その溜め息にさえ、笑みが混ざってしまったのだけど。
「いい? 足が沈むところには何か危ないものがあっても見えないのよ。尖った物があるかもしれないし、もっと深くて抜け出せないかもしれないんだから。みんな怪我はないでしょうね?」
 とりあえずお説教らしいことだけは言っておいて、泥だらけのティミーの腕を手にとる。
「怪我はないよ! お父さんが庇ってくれたし」
「痛くないだけかもしれないでしょう? ・・・うん、目だった傷はないわね。プックルは? 平気ね?」
 プックルにも前足を上げさせて確認したが、痛がる様子もないし、べっとりと泥が付着している以外は問題なさそうだった。
 そして、私のそんな様子を眺めているリュカに向き直り、同じくたっぷり泥を着けた腕に手を這わせた。
 リュカは困ったような顔をしてその手から逃れるように腕を動かしたが、動くとまた泥がはねることも学習したのか、ゆっくりとした逃げ方にとどまった。
「ビアンカ、汚れちゃうよ」
「あんたは嘘が上手だから、確認しないと気がすまないわ」
「僕が君に嘘をつけるはずがないよ」
「・・・この事態を隠そうとしてたのに?」
「・・・ごめん」
 やっとお互いに目が合って、分け合った汚れを気にすることも忘れて、小さく笑った。
 つられるように、子どもたちも息苦しさから解放されるような息をはいた。
「じゃあ二人とも、プックルも、しっかりキレイに洗いなさいね」
 二人分の間延びした返事が返ってくるのを確認して、これまでの状況を見守っていた娘を振り返る。
「ポピー、お母さんと廊下のお掃除、手伝ってくれる?」
「はい!」
 良い返事ににっこりと笑い返すと、早速二人と一匹を残して廊下の泥汚れとの戦いに挑むことにした。





「あーあ」
 その日の夜、昼間の出来事を思い返して、私は思わず呻いた。
「どうしたの、ビアンカ」
 すっかりキレイになったリュカがそう声をかけながら、私の隣に腰を下ろした。
 こちらを見つめる気配に振り向くと、燭台の灯りを映して暗く紅く輝く瞳とぶつかる。全てを見透かす、と言うと聞こえが悪いような気がするが、全て受け止めてくれる瞳の前には、隠し事などする気もおきなかった。
「昼間のこと?」
 言葉を探す私の先回りをして、優しい声が降ってくる。トーンを落とした、少し吐息の音が混ざった声が、耳に心地よかった。
「ねえ、私怒りすぎたかしら? 怪我をしたらどうしようと思ったら、声が大きくなっちゃって」
「ビアンカが心配してることは、ティミーもポピーも、僕もよく分かってるよ。まあ、子どもは多少体当たりで学習して成長すると思うから、今日みたいなことを全部怒るわけにはいかないとも思うけど。あ、でも今日のことは僕が悪いんだよ。一緒にはしゃいでしまったからね」
 僕が一番子どもだね、と付け加えて、彼は笑って見せる。
 やっぱり彼は私が考えていることなど、全部見えてしまっているのではないかと思った。
 そしてそれと同時に、彼もまた、まだ手探りなんだと感じた。
「リュカ。私、ちゃんと『お母さん』してるかな?」
 子どもたちの目が開く前に消えてしまって、八年も経ってしまった。
 今更、とは思わないし、思いたくない。
 けれど八年という歳月は、親としての成長も難しくしてしまっていたから、どんな「お母さん」が正解なのかと、考えてしまう。
 少しの沈黙の後、先ほどと同じく柔らかい声が耳に届いた。
「ビアンカは立派な『お母さん』だよ。でも、僕がそう言っても、君は納得しないよね。・・・ビアンカは、どんな『お母さん』が一番いいと思う?」
「え・・・?」
 それはずっと考えていたことだ。
 お手本にしようと思って思い出すのは、自分を育ててくれた母さんのこと。けれど「子ども」から見る「母」は、家事が出来て、逞しくて、怒ると恐くて、といったことばかりで、自分の求める答えは見つからなかったのだ。
 少なくとも、真似をするだけでは駄目だということは分かっている。
「子どもの全部を受け止めて、必要なときにはがっつり怒る、みたいな感じ、かなって」
 自分の思いにしっくりこないものを感じながらも、考えたことを文字と音で紡いでみる。
 ぎこちない説明に「やっぱりよく分かってないみたい」と自分で苦笑した。
「・・・僕はね・・・、僕もよく分かってないから大雑把なんだけど、『お母さん』って一番強い人じゃないかと思うんだ。子どもを守るためなら、危険だろうと自分の命だろうと顧みずに飛び込んで行けて、相手が何であっても絶対退かない、絶対に子どもの味方である人のことかな、ってね。・・・・・・だからビアンカは、立派な『お母さん』だと思ったんだ」
 誰のことを言っているのかが分かる。
 そして、私が子どもの代わりに攫われたことを思い出しているのだと分かる。
 リュカの言葉が本当に胸に染みこんでいるのではないかと思うほど、胸の奥、頭の奥が熱を帯びて、目の奥が痛かった。
「・・・すごいわ、ありがとう、リュカ。・・・私もそんな『お母さん』だったら、すごく素敵だと思うわ」
 不安や迷いはきっと消えないけれど、それを何度でも吹き飛ばせるだけの理由が手に入ったような気がした。それだけで、胸につっかえていたものがすとん、と落ちたようだった。
 私の言葉に、リュカはちょっとだけ照れたように笑って、すごくないよ、と呟いた。
「そう思っただけだよ、君を見ていて」
 少し迷うように一呼吸置いて、また言葉を続ける。
「・・・たぶん、だけど・・・、僕が『ちゃんとお父さんしてるかな』って君に聞いたら、さっきと同じことを言ってくれるんじゃない?」
 多少自信なさそうにそう言うリュカを見て、さっき彼が言ってくれた言葉を頭の中で、そして胸の奥で転がして、ああ、と思った。
「・・・うん、そうね。私もリュカを見ていて、そう思うわ」
 安心や嬉しさが胸の奥をくすぐって、自然と頬が緩んだ。
 応えるように、彼もまたとろけるような笑顔を向ける。
「リュカには本当に、心の奥まで見られてるんじゃないかと思っちゃうわ。いつも私の気持ちなんか、しっかり汲んでしまうのだもの」
 冗談めかして言ってみると、リュカは一瞬心底意外そうな顔をした。
「そんなことないよ」
 だって、と続けながら、私の目をのぞき込むように見つめてくる。どこまでも吸い込まれてしまいそうな漆黒が、少年のような輝きを見せた。
「だって僕は、ビアンカが僕を好きなのか、いつも分からないんだよ」
 あんまりといえばあんまりな言葉に、私は思わず吹き出して、リュカの胸にもたれかかるようにして笑い声を上げた。





あとがき

初DQ、難しかったですが書いててなんだか超幸せ気分です(笑)
名前も性格も十年ほど前に読みまくっていた小説版の影響が大きいので、
そんな感じになってると思います…たぶん。

主ビアって、姉弟と夫婦と恋人を同時にやってるような気がします。
いや、むしろそれ希望なんですが(笑)
いろんな意味の愛情、愛着を持っているような、そんな雰囲気。
本当はもっと、人間くさくていいと思うんですが、今回はあえて清らかさ重視です。

読み返すと、主人公が非常にたらしっぽいですが、彼は天然なだけです。
ビアンカも、彼の言葉には嬉しさが先で、天然たらしだとはきっと思ってない。
むしろ子どもたちの方が「うわぁ・・・」って感じかも(笑)
余談ですが、子供を「子ども」という字面にしたのは、
「親の付属品じゃない」という意味を込めて。



お題配布元:おつまみ提供所。
【後に続けて書くお題】
1:その時私は、彼が言ったその台詞の意味をいまいち理解出来ていなかった。→コルダ
2:勢い良く扉を開けて、案の定な様子に私は盛大な溜め息をつく。→DQ5
3:いきなりだが、私は物凄く悩んでいた。どうしてこの人がここにいるのだろう?→オリジ
4:あの日からどれだけ、俺はコイツに振り回されたことだろう。→FF6(本家)
5:本当は凄く近い所に、答えはあった。けれど、私はそれを探すことに酷く苦労させられた。→幻水1
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