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ファーレの日常パートSS。
版権キャラは出てませんが、自キャラと婚約者さまのカップリング話になっております。
苦手な方はご注意を。
版権キャラは出てませんが、自キャラと婚約者さまのカップリング話になっております。
苦手な方はご注意を。
左手に抱えた分厚い本の重みが、手から腕の、そして腕から肩の重みに変換されてじわりと痛む。ついでに若干頭痛もする。
広い城の中、図書室と自室の往復を今夜は三度も繰り返していた。
------効率が悪い。
誰もいない薄暗い廊下を歩きながら、ため息の代わりに眉間に皺を寄せる。
徹夜はできるが、視力と思考能力が低下する分、仕事は思うように進まない。
ルギは空いている右手で額を覆うようにして頭を押さえながら、自室に向かっていた足を止め、手近な柱の陰に寄り掛かった。
柱から背中に伝わる硬くひんやりとした感覚が心地よい。目を閉じると少し楽になった。
窓から差し込む月明かりが、暗く広がる空間を柔らかく照らし、真っ直ぐな廊下を気まぐれに風が通り過ぎる。冷たすぎないその風が、伏せた瞼や髪を優しく撫でていった。
しばらくの間、ゆるい風の感触と夜風に流れる微かな砂の音に意識を向けていると、不意に小さな足音が鳴った。音のした方を振り向けば、しまった、とでも言いたげな表情と出会う。
「……こんばんは、ファーレ殿」
「こんばんは、ルギさん。またバレちゃいましたね」
よく知る顔がそう言って相好を崩す。今度は忍ばせていない軽い足音と砂の音が重なって聞こえた。
------「また」?
「あ、以前にもこんな状況があったんですよ。でもルギさん、ちょっとした音でもすぐに気がついてしまうから。考え事の邪魔をしないようにと思って、これでもそーっと歩いてきたつもりなんですけどね?」
ファーレが悪戯を白状するように言い、ルギはようやく「また」の意味を理解する。そして同時に驚いた。
今の一瞬の沈黙で自分の疑問点が分かったこととか。以前にも目撃されていたこととか。
更に、隣に立った彼女が小さな勘違いをしていることに気付く。
「すみません、見苦しいところを。考え事なんて大層なものではなく……休憩です」
徹夜続きだったもので、と補足を加えてしまってから、遅れてやってきた気恥ずかしさに思わず顔をしかめた。
かすかに俯いた拍子に、癖のない真っ直ぐな髪が耳元から眼鏡の弦に沿って顔の前に落ちかかる。髪と薄闇が渋面を隠してくれることが、今は少し有り難かった。
その髪の隙間から、心配を含んだ双眸が透けて見える。
「それなら尚のことお邪魔してごめんなさい。大丈夫ですか?」
「ええ、寝不足なだけですから」
「……そうですか?」
「問題はありませんよ」
眼鏡を軽く押さえてから、落としていた視線を持ち上げる。
それとほとんど同時にファーレが両手を伸ばし、ルギの顔を隠していた髪を指で梳くようにして耳の辺りまで追いやった。
「ルギさんは隠すのが上手ですから、確認です」
夜目にもそれとわかる青緑が、レンズを隔てた紫紺を観察するように覗き込む。
あまり無理はしないで下さいね、と囁く声が念を押し、髪を持ち上げた形の手はそのままに、半分月明かりに照らされた白い顔が解けるように緩んだ。
その微笑を受け止めた顔が、じわりと熱を帯びる。
「……隠すのを手伝ってしまうのは困りますけど、ルギさんの髪は夜の色で綺麗ですね」
「…………はい?」
何を言われたのか理解が追いつなかったのは、顔が熱いからに違いない。
「月や星の明かりが溶けた夜空の、優しい色です」
思わず発してしまった訝しげな声を気にする様子もなく、歌うような声が転がってくる。
これまでにも人に髪や容姿を褒められたことは度々あったが、嬉しいと感じる以前にどう返答したものかと悩むばかりだった。
そもそも、そういった褒め言葉は女性に向けられるものではないか。この国で最もそれに長けた人物である陛下ならば、この状況で何と言うのだろう。
「ファーレ殿の髪は……」
この砂漠の金色のように美しい、などと言うつもりか。
口を開くのと同時にそんな自問が渦巻いて、言葉を切る。
喜ばせたいと思う気持ちに嘘はないが、言い慣れない言葉で真似をしても白々しく聞こえるだけかもしれない。
ゆっくりと瞬きをする間にそう結論づけ、ルギは素直な感想を口にした。
「……甘い、匂いがしますね」
「えっ?」
「肌も」
離れていこうとする細い手首の片方を、やんわりと捕らえて顔を寄せる。
つい先程まで焼き菓子でも作っていたのか、バニラの香りが鼻をくすぐった。手のひらには彼女の体温を感じる。
その甘さと小さな温もりが、強張った肩や目頭を自然に溶かしていく心地がした。
思わず、ふ、と息が零れる。
「くすぐったいです、ルギさん」
クスクスと楽しそうな抗議の声が漏れ、息が触れる距離にあった指がはにかむように折れた。
その様子を見て、捕まえた時と同じようにそっと手を離す。
「あ、失礼」
「ふふっ、いいえ。新作開発中なので楽しみにしてて下さいね」
そう言ってしまってから、ファーレは開放されたばかりの手でやや慌てて口元を押さえた。
「……夜中でしたね」
しばし間を置いて、苦笑の混じる声が小さく囁く。
その表情がいつか見た幼いそれと重なって見えて、懐かしさに自然と笑みが浮かんだ。
うまく笑えているだろうか、と頭の片隅で考えながら、ルギは抱えていた本を右手に持ち替える。
重みから解放され、うっすら痺れるような感覚に包まれた左手が時間の経過を物語っていた。
「さて、そろそろ戻りましょうか。お送りしますよ」
その言葉にファーレは一瞬目を丸くして、やがて控え目に口を開く。
「……流石に、もう迷子にはなりませんよ?」
「それもそうですね。……では、私がそうしたいのですが、お付き合い願えますか」
どうぞ、と手を差し出すのに合わせて、足下の砂粒がちり、と焦れたように音を立てた。
やけに長く感じられる瞬きの後に、いつもと変わらぬ笑顔と声が返ってくる。
ちょん、と遠慮がちに重ねられた甘い香りのする指先は、先程よりも熱を帯びているような気がした。
あとがき
ルギファレです!(言ってみたかっただけ!)
お互いにこっそり照れまくってたら可愛いよね! と思ったらこうなりました。
共有した時間が長い分、大抵のことでは照れたり動揺したりしなそうですが、
こんな風に思いがけないタイミングで顔を合わせた時なんかには、
驚きと混ざって逆に些細なことで感情が揺れたりして、
なんだか動悸がする…とかなってたら私が楽しいです(笑)
本当は昔の話も入れてたんですが、収まりが悪くてカットカット…。
その辺はまた改めて書きたいと思います。
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